完全無欠の世界観

さくら (小学館文庫)

さくら (小学館文庫)

「幸せな家族」という完全な世界観から、1ピース、その構成員を取り除いたらどうなるか。
幸せさは当然、不器用な形になりますよね?


そういった物語です。

前半は幸せすぎる家族の物語。
きれいでやわらかい描写で、幸せな家族を描く。


ヒーローな兄貴、おてんばだけど美しい妹。
まあ、裏であんなことになってるとは

そして、その間に位置し、でもそこそこそのお陰でうまく学生生活をサバイブ出来てる少年。
前半は、素敵な家族物語です。



それが、逆に失うことを悲しいものにしている。
完全な世界の、ひとつのピースが外れたとき、その世界は醜くなる。



その壊れ方が。「ギブアップ」の悲しい使われ方です。



そこまでは、中村航にも似て、喪失の描かれ方は、
そこまでの描写がほほえましいだけに悲痛です。





しかし、世界はそれでも動く。
離散していた一家がそろい、そして、かつて幸せの象徴だった犬が病気になったことに直面して、
放浪していた父親のスキルが生かされる。

なんという再生劇。
そうして、世界観は不完全ながらも再生をするのだろう。

死んでしまったものを悔いることは、たしかに必要だろうし、
思いを馳せることも時には感情をなだめるためには必要だ。
しかし、そこから動き出すことも、必要なんだろうね。

そんな思いになれた一作。