桜庭一樹の「青少年の禁忌感」

お待たせしました。桜庭一樹作品をかなりまとめて12月まで
読み込んでいたのですが、なかなかアウトプットの機会はないし、
辻村深月の文庫が面白いし、と、遅れてしまいました。
これ以上遅くなると着想したことを忘れそうだし。

さて。読書日記を読む中で。
桜庭一樹が結婚したときのことが記された近辺の記事で、ぼそっと「苗字」に言及して、「過去の血の物語が私を追ってきても、もう、名前が違う私をうまく見つけられないだろう」*1といったことが書いてあるんですよ。

桜庭一樹の本質は、血とか禁忌とか、と前からつらつらと考えていました。

じつは、9月ごろ、院試験終わって一息つく中、最初に桜庭一樹を読んでいる中で、「なんでこんなにこの作家にエンタメである以上にどきどきするのか…」とふと思ったのですよ。

それくらい、最初にあじわった時の桜庭作品は、佐藤友哉の破壊衝動とも、西尾維新の戯作のスパイスとも味が違う禁忌に触れてたわけなんです。


そのテイストの違いを際立たせているのは、二つのキーワード。

青少年感、と禁忌。


えっと、まず下の2冊はそれが顕著だとはいえますが。

少女には向かない職業 (創元推理文庫)

少女には向かない職業 (創元推理文庫)

まず、少女2人がいて、一人の狂気と禁忌を、もう一人が眺める、って
作品だから、とざっくり言い切ってしまうのにはもったいなさ過ぎますが、狂言回し役がタブーを味わい、そして成長する、という「青少年」の「成長物語」…に、見えなくも無いわけです、ぼーっと見ているだけだと。

ええと、ビルドゥングス・ロマンでしたっけ?なんかウィキ・ペディア先生(ネットの世界の詳しい人)に聞いてみたらぜんぜんピンとくる回答をくれながったので、そこらへんには考察が必要ですが。(「三四郎」を例として挙げられましても…なんかピンと来ないです。)

禁忌と向き合い、成長していく感じならば、この作品も。

GOSICK ―ゴシック― (角川文庫)

GOSICK ―ゴシック― (角川文庫)

ヴィクトリカは、貴族の出ながら、正妻が生んだわけではなく。
「山の民」の子供でもあります。

なおかつ、その出自にもかかわり身に振ってくる謎を、
気だるげに日本からの留学生、久城くんとといていくわけです。
で、確実にそんな中で二人の距離にも変化があり、また
出自にまつわる世界観、も変わってくるわけで。



さて、単純に青少年向けの物語だから、青少年の成長を描く成長物語に
してるのかな?かな?とここまでなら思うわけです。

しかし、所謂、「大人向け」とされている作品にも。
「青少年の禁忌感」が出てきちゃうんだもんな…。

赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説

「赤朽葉〜」は、女性3代の昭和・平成時代記、という側面が
非常に面白かったのですが、(例えば、製鉄所が「高度経済成長とそれに基づくシステム」のメタファーだと思いました。)
それでも、「山の民」の祖母が出てきたり。青少年が暴れまわる母の若い時代の話が有ったり。

製鉄天使

製鉄天使

そのスピンオフな、この作品も、青春の狂騒を中心に「女暴走族」の抗争を描いていたり。


私の男

私の男

「私の男」にいたっては、近親相姦を大上段のテーマにして。しかも、中学生時代から成人するまでの話をカットバックしつつ進むので、当然成長譚も存在して。禁忌が絡み合ってちょっと胃もたれ的気持ち悪さが心地いい作品だったし。




若い、というだけでいろいろと自分と社会の関係を考えて、若者にとって禁忌は美しく映ったりするのかもしれません。
そして、禁忌に触れる事にわくわくしてしまうのかもしれません。

高校生が悩んで抗鬱剤みたいなお薬大量に飲みながら生きながらえ、結果自殺する物語を昔レビューしましたが、まして、出自の問題が絡んできたりすると、自分と社会の位置取りに若者は悩むかもしれません。
そんな中で、「社会のルール」の外側たる禁忌にわくわくしてしまうかもしれません。
つーか、だからこそエンターテイメントに禁忌は似合うのかもしれませんけどね。


ここまで読んできた桜庭一樹作品は、そこを美しく魅せてくれてるものでした。

さて。まだ読めてない「ファミリー・ポートレイト」と「荒野」、「青年のための読書クラブ」を
読んでみて、ここまでの自分の抱いた桜庭一樹感が変わるかどうか、
そこが個人的には楽しみなところでは有ります。
そこで新たに出会うであろう禁忌にわくわくしつつ。

p.s. うーん。桜庭一樹だけで15冊ぐらい読んでるよなー。
やっぱり年間80冊ぐらいは読んでてもおかしくないよなー。
もごもご。ブクログのカテゴリをちゃんとつけたら、72冊は読んでたけど。。

*1:桜庭一樹読書日記 お好みの本入荷しました p179」